【読書メモ】異端の統計学 ベイズ

お正月休みに読了した本について。 目次は後ろに記した通りで、ベイズ統計学の歴史を1740年代からごく最近まで続いた、頻度主義者との論争を中心に描いたもの。

異端の統計学 ベイズ

異端の統計学 ベイズ

それぞれの学説の発展など史学として読んでも面白いけど、 より印象に残ったのは、論争が250余年も続いた本質的な理由であろう、 ベイズ主義者と頻度主義者の統計学への哲学的な認識の差ですね。

第一部から第三部にわたりベイズ統計学の苦節、特に頻度主義者の代表格であったフィッシャーやネイマンが「等事前確率」を断固として認めずにいた点などが、描かれています。

この間の論争史の後に、第四部以降にてベイズが今日において脚光を浴び始めた部分が描かれます。 苦節の物語を読んだ後だと、

p370

沿岸警備隊のルールでは、確立の見積もりや重み付けは集団で決定することになっていた。関係するひとりひとりがシナリオに重みをつけ、合議の上でそれを平均したり組み合わせたりする。そしてその際には、何はさておきいかなるシナリオも捨て去ってはならないとされた。「主観的な情報を除外するということは、その情報を定量化する一意的なあるいは『科学的な』方法がないという理由で貴重な情報の投棄を正当化するに等しい」とストーンは強く主張している。

という一節が、ベイズ主義者の哲学を表しているようで、めちゃくちゃ鮮明に浮かび上がります。

また第五部ではモンテカルロ法の導入についても史実の面から書かれており、ベイズ統計学のブレークスルーの理由が腹落ちした感があります。

読後には、ベイズの定理が主観的な情報を拾い上げるという性質を持ち、かつMCMCによって次元の呪いにも打ち克つことができるという二点から、現実世界の情報を棄損することなく解析できるので、様々な分野に応用可能なツールとして普及していった理由が納得できました。

結局、因縁の「等事前確率」については決着着かず?

第1部 黎明期の毀誉褒貶

第1章 発見者に見捨てられた大発見

第2章「ベイズの法則」を完成させた男

第3章 ベイズの法則への激しい批判

第2部 第二次大戦時代

第4章 ベイズ、戦争の英雄となる

第5章 再び忌むべき存在となる

第3部 ベイズ再興を志した人々

第6章 保険数理士の世界からはじまった反撃

第7章 ベイズを体系化し哲学とした三人

第8章 ベイズ、肺がんの原因を発見する

第9章 冷戦下の未知のリスクをはかる

第10章 ベイズ派の巻き返しと論争の激化

第4部 ベイズが実力を発揮しはじめる

第11章 意思決定にベイズを使う

第12章 フェデラリスト・ペーパーズを書いたのは誰か

第13章 大統領選の速報を支えたベイズ

第14章 スリーマイル島原発事故を予見

第15章 海に消えた水爆や潜水艦を探す

第5部 何がベイズに勝利をもたらしたか

第16章 決定的なブレークスルー

第17章 世界を変えつつあるベイズ統計学